log (2001.1 〜 8)
 
1月4日
 
001228
長距離バスで北へ向かう。6時間の道中をずっと起きていようと思った。雪が見たい。どこから降りだすのか、それが見たい。
新宿→池袋→王子→群馬→栃木
場所の記憶のピースがひとつひとつ繋がっていく。自分の小さなジグソーパズルが。
 
001229
一番会いたくない人。だけどその為にここへ来たんだ。
「おまえ髪少なくなってない?」
なんで分かるのかな。あなたは私を人形のように扱うから、私は心をからっぽにして宙を見つめる。少しの時間、私を通りすぎるのを待つ。だけど本当は私の形をした玩具に飽きるのを、もう4年も待っているんだ。
 
001230
よく行っていたショッピングモールが増設されていた。大好きなフランフランはもう3件あるらしい。ここに住んでいたって何も不自由なんかない。
muji cafe で友達とお茶を飲む。長かった髪が短くなっていた。彼氏との出逢いの話を聞いた。メールで知り合った という言葉にお互い笑う。あのコの恋愛はいつも幸せそうじゃなかったから、少し安心した。女のコは自分の話をするのが好きだ。髪が切りたいと思った。
冷静と情熱のあいだ のBluをようやく読み終わった。フィレンツェへ行ってみたい。月並みにそう思った。こっちを後で読んでよかった。救いようのある最後でよかった。そうこなくっちゃ。
 
001231
お母さんとスーパーへ行った。
「おさしみ食べる?」
「食べる」
「納豆食べる?」
「納豆は自分で食べれるからいらない」
ずっと食べて飲んでごろごろしていた。ビール ワイン 日本酒 シャンパン・・・ それに合ったグラスがきちんと用意されていて、さすがだなと思った。
何度も窓をあけて空を眺めながらタバコを吸った。同じ日本なのにどうしてこんなに違うのだろう。
 
010101
お母さんはなんでも作る。ビールもハムもソーセージもパンも。久し振りの玄米ご飯。家にいた時は好きじゃなかったのに とてもおいしいと思った。よく噛んで。
夜、今年初めて携帯が鳴った。
「やっと帰って来たんすね」
「ううん 明日の朝もう東京帰るよ」
「もうそこに住んだらいいべや 何の為に東京帰るの その意味が分かんねぇ」
そうだね、私にも意味なんて分からない。ううん、東京にいる意味なんてない。分かってる。
部屋を真っ暗にして二人で「世にも奇妙な物語」を見た。電気カーペットの上で毛布を掛けてごろごろした。
「今日はもうこのまんま寝ようか」
「…いつの間にそんなだらしない人になっちゃったの 布団敷いてあげようか?」
「なんだか面倒臭くなっちゃうのよねぇ 生きてるのもめんどくさくなっちゃうのよねぇ」
「ああ…それ私と同じじゃん …生きてるの楽しくない?」
「楽しくは…ないわねぇ」
どうしてこんなにも親子なんだろう。
お母さんは先に寝た。私はあいのりスペシャルを見た。外に出てタバコを吸いながら空を見上げた。なんだかお母さんに会えるのがこれで最後のような気がした。そして、向こうもそう思ってるんじゃないかって思った。お母さんは多分あの日を知っている。私が何もかも嫌になったあの日を。全て捨ててしまおうと、この世界から消えてしまいたいと願ったあの日を。私は遠のく意識の中で、このまま死んでしまってもいいと思ったんだ。本当に本気で思ったんだ。次の日の夜、電話をかけてきたよね。あなたは何も言わなかったけど、本当は知っていたんだと思う。知っていて何も言わなかったんだと思う。私たちはもっと生きることに貪欲になるべきだよ。幸せに貪欲になるべきだよ。何も望まない生きかたなんて、かなしいことじゃない。
 
010102
フランフランの福箱を買った。お母さんは紅茶の福袋を買った。車の中で開けて、半分私にくれた。お互いいっぱい紅茶が飲めるね。お互い一人の部屋だけど。
これ以上一緒にいたら 帰れなくなっちゃうからもう行くね。だけどここが自分の場所なんだと思う。きっといつか帰ってくるんだと思う。
 
 
2月3日
 
 想像するのは苦手。創作するのが苦手。リアリティーのないものが苦手。苦手だけど嫌いじゃない。憧れているのに私にはできない。
 感性とか想像力とかそれは備わってるもの?身につけるもの?自分だけの言葉で、自分だけの感性で、分からなくてもなんとなくでいい。なんとなく感じるものを創りたいと思うのに。私の辞書には『うれしい』とか『さみしい』とか『おもしろい』とか『よかった』とか『好き』とか、そんな陳腐でとてもチープな言葉ばかりだ。アナーキーでもアーティストにはなれないなんて。
 怖くて言えなかったけど、私はもう10日以上家にいるの。自分を責めるのも疲れちゃったから、現実逃避をして楽に生きようとしているの。現実逃避はさ、想像の産物がなくても、思考をやめてしまえば成り立つみたい。どうにでもなるやって、前向きのようで後ろ向きな使用方法もできるんだよ。何も産みださずに呼吸をしているだけ。それでも存在している意味なんてある?本当にあるって言える?無価値な私が存在する為にもお金が必要だなんて。粗大ゴミみたいだ。
 嫌われたくなかった。誰にも嫌われたくなかった。口に出せば救われたかもしれないけど、口に出された人の気持ちも口に出している自分の中の答えも分かってるから言えなかった。ここに書くことすら怖かった。分かっている。本当だよ。分からないのはひとつだけ。どうしてこうなのかって理由だけだよ。それでも生きていたいだなんて。こんなに生に執着してるなんて。そろそろ思考を働かせて、リアルな世界に戻ろう?想像はできないけど、現実なら見えるでしょう?
 お金を手にしたら、幸せや安定は手に入るかもしれない。それを確かめてからでも、自爆装置のスイッチを押すのは遅くないじゃない。自分で確かめるから。先に結論は言わないで。
 
 
3月8日
 
 朝の埼京線で「ノルウェイの森」を読んでいた。ラッシュにはまだ早く、現実感がまるでない。
 突然激しく泣きたい衝動にかられた。直子がワタナベに手編みの手袋をプレゼントしたところだった。泣くところではない。ましてや緑はまだ出てこない。内容が関係しているとは思えなかった。電車の窓から一瞬光が射し込むみたいに、本当に突然ソレはあっと言う間に私を支配したのだ。
 自分で驚いた。初めてだった。理由もなくこんなことが起こるなんて自分にはないと思っていた。今まで突然と表現していたことは皆こんなに突然ではなかった。反射的に本から目を離し、うまく働かない頭で何が起こったのか理解しようと努めた。なんとなく、なんとなくだけどソレに流されてはいけない気がすることだけ解かった。私は周りから頭がおかしいと思われないようにするのに必死だった。呆然としながらも人目を真っ先に考える自分がいた。つまらなくて至極まともな人間だ。大丈夫、大丈夫だ。そう言い聞かせながら続きを読んだ。
 直子が泣いた。そしてワタナベは直子と寝た。村上春樹の世界の登場人物はオカシイ。絶対頭がオカシイ。それでも惹かれるのは私がまともな人間だからだ。ただ憧れているだけだ。本気で同じ側の人間だなんて思ったら狂っているに違いない。誰かと一緒にいられるのなら、村上春樹の世界など理解できない人がいい。私が男だったら私みたいな女と付き合うなんてまっぴらだ。中途半端に理解している気になり、中途半端に扱いにくい、こんな面倒な女は絶対に嫌だ。
 誰かと寝れば気も治まるだろうか。直子は救われなくとも私は救われるような気がする。ただ抱きしめられるだけでいいなんて都合のいいことは言わない。思うだけでそれを行動に起さないのは私がまともだからだ。狂ってなんかいない。誰もが感じること。そうでしょう?(そうじゃなきゃ困る)
 
 
5月25日
 
 その事実に感情は追いつかない。ただぼんやりと人事のように居た堪れなくなった自分を模倣するだけだ。「キミの代わりなどいくらでも居る」 真顔でそう伝えてみようか。口の端を曲げた自分は思いのほか安易に想像できた。東京は暮らしやすい街だ。みんな淋しがっている。淋しいと先に口に出した者を救うふりをして傷を舐め合えばいいのだ。 「僕はキミが必要なんだ」 「キミなしでは生きられない」 キミはいくらでも代替がきく。キミは不特定多数だ。
 膝の裏に内出血を見つける。黒い、醜い痣だ。何か悪いことでもしたかな。これは何の罰だ?思い当たることはたくさんありすぎるから、長いスカートをはいて見なかったことにしよう。
 髪を切ろうかと考える。行動に理由は必要か?じゃぁ失恋ってことで。うん、それって最高。
 
 
7月1日
 
 一年前の今日は私にとってのターニングポイントです。日記を書いていると自分が何をしていたのが容易に思い出せます。
 別れてから一年が経ちました。私は酷く臆病になりました。そしてまだ、男の人の身長の感覚だけ麻痺しています。
 去年の誕生日、あの人は私と顔を合わせなかった。一言も口を利かなかった。その日にやっと私は別れようと決意できたのです。
 あんなに大事に想っていても人間は忘却の生き物で、私も今ではどんなに大事だったのか忘れてしまった。
 私の誕生日は別の人が祝ってくれました。「出逢えてよかった」と。「一年後も二年後もおめでとうと言うよ」と。そんな言葉は嘘だよ。先のことなんて分からない。そう口から出そうになったけど、私は辛うじて黙っていた。先のことは分からないと、本当はその人も分かっていたのでしょう。分かっていた上で、口に出したのでしょう。多分その言葉は嘘ではなくて。その時の気持ちは嘘ではなくて。誰も私を騙したりはしてない。別に人間不信なわけでもない。ただ、愛しすぎる自分に不安になるだけです。つうか、愛するって何ですか?それはその場の雰囲気のまやかしに過ぎないのではないですか?そんなことを思う私は随分と臆病になったものです。さて、どうやって脱却しようか。
 
 
7月14日
 
 近所の魚民のトイレに入ったら個室2つとも使用中。中の女の子は友達らしくて個室同士で喋ってる。なんか恋の話。一人出てきたのでトイレの鍵をかけてから思わず嫌な笑いを浮かべてしまった。でもよくよく聞いてると、話しているほうの子は泣いているみたい。本当は相手の男の人に言いたい言葉が友達に向けて発せられる。知り合いでもないのにそれを聞いてしまっている私。個室を出ると女の子はずっと泣きながら手を洗っていた。手を洗いたかったけど何も言えなくて、気づいてもらえるまで伏目がちで後に立っていた。
 
 
8月23日
 
 どうしようもない自分をそのまま認めるにはプライドが高すぎる。だから誰かを見下して、蔑んで、自分が高い位置にいるような錯覚を起こす。どうしてそんな恥ずかしいことを平気でするのさ。僕はとっくに気づいているよ。僕は君より優れているから。
 
男性恐怖症10年振りの再来。いや、違うな。あの頃は本当に男の人と喋るのが、男の人そのものが怖かったけど、今は話せないわけじゃない。自分の性別を思い知らされたくないだけだ。「男に生まれたかった」この間、生まれて初めて口にした。私が女だってことに気づかせないでほしい。女だと思わないでほしい。相手はそんなこと意識せず、何の気なしにやった行為であっても、自意識の過剰な私は確認してしまう。この人は男なんだと。そして私は女なんだと。同時に自分を嫌悪する。嫌だ嫌だ、気持ちが悪い。明らかに私の内は逆行している。いままで肯定していたものが突然強い拒絶に変わる。自分の中の女の部分がすごく疎ましい。気色悪い。それなのに放棄することができない。だけど強く望むことも。
 































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