log (2003.1 〜)
 
4月28日
 
 ODなんてしない。約束する。一緒に死んじゃおうか、なんて言い合って笑う。太宰みたいに多摩川入水して俺だけ生き残るよ、なんて。うん、それでもいいかな、なんて。生に貪欲な私たちは、絶対にしないとわかっているから笑う。わからない先のことと、今わかる全てのことを、考える約束をして。
 
 
4月7日
 
 恋人が風邪をひいた。私が行ったところで何ができるわけでもなく、桃缶とプリンをふたつずつテーブルにひろげ、恋人に豚汁などよそってもらい、モンスターズ・インクを観て寝ただけだったが、違ったのは恋人が私のほうを向き、腕にしがみつくようにしたことだった。顔やおでこに頬をつけると私より高い体温が伝わってくる。このまま体温を吸い取って、ふたり同じ温度になればいいのに、と思いながら髪を撫でた。普段から「大人の男はお尻だよ」と公言している恋人の片手が私の胸を触る。これが本能なのかとぼんやりと思う。男の幼児的本能と女の母性本能。
 
 区役所で作った図書館の貸出カードのように頼りない国民健康保険証を財布にしまい、病院へゆくために渋谷行きのバスに乗った。低い床に並んだ席に座り、窓から知らない町の景色が通り過ぎるのを眺める。
 そういえば、いつからか空を見ていなかった。昼も夜も外にさえ出ればぽかんと口をあけ呆けた表情で、いつも空ばかり仰いでいたのに、最近の私は目先の春や恋人ばかりを追って、全然空を見ていなかった。
「もし私たちが別れるとしたら、理由は何だと思う?」
「先が見えないから」
 窓から見える空は水色で、綿菓子をちぎったようなぼわぼわとした飛行機雲が横切っている。どこまで続いているのだろう。その先を探してみたけれど、目先の春に遮られ、行きつく先はわからなかった。
 
 
3月3日
 

 
― 私たちは駄目になるために一緒にいるわけじゃない
 
「キミがいなくなったらこんな風に触れられる人が誰もいなくなっちゃうね」
「俺だってそうだよ。いなくならないよ。いなくならないでね」
「うん、いなくならないよ」
 
 夕刻。一日の大半が過ぎたはずなのに、恋人の一日はまだ始まっていない。恋人の隣にするりと滑り込み、温かな掛け布団をすっぽりと被って、世界から隔離された山吹色の中で、恋人を背中から抱きしめる。
― 溶け合えるくらい近くにいるときが、一番遠く感じられるんだ
 どんなに強く力を入れたってダメさ。確かめる方法を間違っているんだからね。ここにはふたりしかいないよ。一番ちいさな世界だ。ねえ、ここは気持ちいい?ふたりこのままここにいようか。腐ってゆくみたいに、ずっとこのままここにいようか。
「大丈夫」
 突然恋人が口にした言葉。私の手を握りながら、もう一度、同じ言葉を繰り返す。
「大丈夫?・・・どっちが?」
「どっちも」
 私は何も声にしていないのに、どうしてそんな言葉を口にしたのか。お互いの不安が共鳴している。滲み出てきて、どうしようもないんだ。一緒にいることで増長する不安。見つけた解決方法は、ふたつあるけどまだ言いたくない。
 
 
2月20日
 
 仕事もしていない私の暮らしっぷりといえば、インターネット、通院、恋人との逢瀬くらいしかないわけで、いや、別に人目を忍ぶ必要はないのですが、何だか逢瀬って響きがいいなと思って。
 一応 spore vol.2 に掲載される予定の小説も、先月参加者の中で一番早く提出し、改稿も先日終わり、私は(あ〜早く本できないかな〜)なんて呑気で人任せなポジションにいるわけです。
 そんな気楽な毎日を過ごしていたならば、しわ寄せは確実にくるわけで、現にもうしわくちゃなんですけど、あえてひとつ挙げるとすれば、なんと、10kg太りました!鎖骨がなくなった。しあわせ太りなんてしあわせなものではなく、空腹感も満腹感もなく病気のように吐きたくなるくらいまで食べるので、薬のせいにでもしておかないと、恐ろしくてまた食べてしまいそうです。「食べるなら 僕を食べて」 恋人は相変わらずやさしいですが、太ってる女の人はあまり好きではないようです。
 ついこの間、お付き合いから一ヶ月経ちました。たった一ヶ月なのですが、両者もう半年くらい経っているような気持ちになっており、このまま生き急いでいると半年後には3年の気分になり、恋人はプロポーズの言葉を考えたり、私はそろそろ見切りをつける時期かしらなどと考えたりするのかもね、と話しました。それって確実に終わりも早まってるんじゃないかと私は思ったのだけれど、食欲旺盛なので飲み込んでおきました。
 
「そのうち僕は藤原さんに似てきて 藤原さんは僕に似てきて」
 そうなのかもしれない。恋人がギターポップを聴きだし、私がダチョウ倶楽部の上島を好ましく思う日もくるのかもしれない。
 
 
2月4日
 
 土曜日。朝方ドクデスからめのこちゃんを連れ帰り、一緒に眠った。放っておいたらめのこちゃんは12時間も寝た。夜は同居人の恋人が来た。その後私の恋人も来て、5人ですきやきを食べた。会った途端にめのこちゃんは、私の恋人を「あきらくん」と呼んだ。あきらくんとはめのこちゃんの従兄弟(らしい)で、この人はあきらくんではない(はず)。恋人は始終おとなしかった。この人喋ったらおもしろいのに、ここでは光が当たらない。誰かが連れてきた、私の知らない人みたい。「この梅酒、僕が買ってきたんですよ」 同居人の恋人が言う。「ありがとう。この氷、僕が買ってきたんですよ」 私の恋人が言う。やっぱり私の知ってる恋人だった。言うときは言う。
 自室に戻ってふたりになると、恋人は急にお喋りになった。ふたりだと喋るんだね、と言うと、3人以上はだめだよ、と言う。「さっきは5人だったもんね」 「うん、キャパ超えたよ」 私と同じキャパを持つ人。「もうそろそろ梅が咲きはじめてるよ。羽根木公園の梅が満開になる頃、2月の22か23に漫画家のあの人が来るんだよ。誰だっけ。有名っていえば有名な・・・ ああ、思い出した。富永一朗。その日、行こうよ」 「富永一朗・・・ お笑いまんが道場だ」 「おにぎりいっぱい作らないとね」 私たちはきっとそんなデートを繰り返す。
 
 日曜日。お昼から起きだしネットをしたりスナックを食べたりしているのに、恋人は起きない。起きようよ、と揺すってみると、起きてるよ、と返す。「起きてるよ、寝てるふりしてるだけ」
 カーテンをあける。窓ガラスからは灰色の光。晴れか曇りか確かめたくて、窓もあけた。向こうに見える家の先には何やら一本だけ樹がたっている。地上3階くらいまで延びた針金のような枝の先に、檸檬を大きくしたような形の山吹色の実がふたつなっている。秋の頃から色褪せず、色濃くもならず、枝も撓らず、落ちることもなく、作り物みたいにずっとくっついている。あれは何の実なのだろう。いつも思うがそこで終わる。きっとそう思うのが好きなのだ。ひゅぅと風が窓辺の鈴を揺らし、しゃらしゃらと鳴った。お正月にふたりで詣でた七福神の鈴。振り返ってみても、恋人はまだ起きない。
 トイレにゆく折に、リビングにいためのこちゃんと目が合う。どちらの邪魔もしないように、ひとりリビングにいるめのこちゃん。いじらしい。それでも部屋に招き入れない私はひどく意地悪だ。
 2時間後くらいに恋人はやっと起きた。「寝てるふりって言ったのに」 「ふりをしてたらふりに夢中になって本気になっちゃった」 そういう言い訳のしかたが恋人らしい。
 夕方、めのこちゃんを駅まで送る途中のカフェで、3人でご飯を食べお茶を飲んだ。「藤原さんのどこが好きなんですか?」 席につくなりめのこちゃんが訊く。言うと思った。めのこちゃんの質問はいつも直球。でもそれ実は私も訊いた。
 駅からの帰り道、持ち帰った仕事をする為にバスで帰ると言っていた恋人を、そんなのうちでやればいいと強引に引き止める。「着替えもしなきゃいけないし、だめだよ」 「金曜日の服なんて誰も覚えてないよ」 「・・・あぶない。その気になるところだった」 「あはは。静かにしてるからさあ」 「もーなんでそういうこと言うの。・・・こっちでしようかなって思ってきちゃったじゃんか」 「思ってきちゃった?はは、じゃあそうしようよ」 「あーもう。朝早いからね」 「ちゃんと起すから」 こういうこと言えるってほんと久しぶり。平然と駄々をこねられる。
 部屋に入った途端、恋人はものすごい集中力でばりばりと仕事を始めた。何だかすごい紙の量。私は邪魔にならないよう、リビングで同居人の恋人とゲームをした。しばらくしてリビングへ来た恋人に休憩?と訊くと、もう終わったと答える。「すごい。それくらい頑張って仕事もすればいいのに」 と言ったら 「いつもこれくらい頑張ってても終わらないんだよ」 と言われた。男の人って大変だ。
 文字の好きな者が集まって「もじぴったん」をすると、大変なことになるのがわかった。知らない言葉がばんばん出てくる。夜も更ける。今んとこ私が一番弱くて、ちょっと自信喪失。
 寝る前に起きる時間の確認。7時10分の目覚ましで起きて、半に家を出ふたりで朝マック、と何度も唱える。布団の中で恋人が、「同じうちの中にカップルが2組いるって思うと変な感じだね」 と言う。あまり考えたことなかったけど、そういえばこれはおかしな状況だ。
 
 月曜日。朝の記憶がとても曖昧。深いもやがかかってる。就寝前、すぐ寝つかねばと睡眠薬を少し多めに飲んだのが原因。恋人がしゃんとして「行ってくるからね」 と言ったのは憶えている。起床後、約束を守れない自分に気分も落ち込む。意地悪な上に嘘吐きとは。暗い気持ちに時折気づき、嫌われたかしらなんていじいじしてる。なんて冴えない週明けなんだろう。ひとりきりの家で、さびしくなったりかなしくなったりした。でも恋人は、そんなことで嫌ったりしないってこともわかってる。わかってるけど付け上がらないようにしなければ。昨日の夜に今まで自分がつきあった人の数を数えた。ぎりぎり一桁の人数分、私はお別れしてきたようだ。してきた、というよりもされてきたのだから、多分そういう努力が大切なのだ。その分だけ真摯でありたい。
 
 
2月3日

 ドクデスのサイトを拝見したところ、レポ書いたことになっていて、そこからウォッチャーの人ががつがつ来るのですが、「みったんかわいかった」としか書いてない私は申し訳ない気持ちになりまして、再度思い出す作業をしております。
 会場入りする前に、めのこちゃんヤマザキさんよしのりくん桃沢さんもとみさんと落ち合ったので、今回はなんだか心強かったです。入った途端に席を確保するあたり、何しに来ているのかわからない集団なのですが、「僕は…エヴァンゲリオン初号機のパイロット、碇シンジです!!」 と聞こえたところでみったんだと確信し、フロアに走ってゆきました。私ミニマル聴かないんですが、あれ踊ってるとちょっと気持ちいいですね。まあそんなことよりも、ぴょんぴょん跳ねるかわいいみったんを凝視するほうが楽しかったのですが。DJが鈴村さんに代わった後はみったん探しの旅を始め、全然関係ない人に「みったんですか?」と声をかけたり(めのこちゃんが)、関係者の控え室のドアを開けたり(めのこちゃんが)してたんですが、よしのりくんがどこからか捕まえてきてくれまして、晴れてみったんと顔合わせできました。「ぴったんは渡さない!」と言われましたが、あげますあげますみたん萌えです。ドクデスではみたんを含む、萌え3本柱を自分の中に立てました。
 とりあえず、kucchiさん・MAGIさん・さかっちょさん・るるるさん・sinnさん・ひでたろうさん・ちーちゃん・竹田さん・館長さん・高橋ゆみこさん・ハマサキさん・イシザワさん、などと一言なり会釈なり交わし、心の中で(小杉さん・モチヅキさん・くぼうちさん・クマガイさん・麻草さん・岩倉さん・コマイヌさん・rougeさん・サヨさん)など確認しました。松尾さんに「藤原さーん!」と大声で呼ばれたときは何が起こったのかと思い、怖かったです。嫁と末永くお幸せに。
 あと、あの人をウォッチしようと心の中で決めた人が、第3回ドクデスと同じ人だったことに、自分の中でうけました。もうくぎ付け。
 
 
1月30日
 
 恋人と映画を観た。上映中暗かったけど、途中で恋人が寝ている予感がしたので突ついてみる。パックのカフェオレを飲んだらずずっと音がして咽喉がごくりと鳴った。頬杖をついていた恋人の左手を外し、無理矢理握ってやった。何でもできるんだって思った。下北のリサイクルショップで見たラックだって買える。温かいお茶とおにぎりを持って、羽根木公園で梅を見ることだってできる。場末のラブホテルの回転ベッドでまわることだってできる。海に行って潮干狩りもできる。串揚げやにだって行ける。午前2時にとんかつだって揚げちゃうし、野草を摘んで天ぷらにもできる。京都にも行けちゃう。行けちゃう?行けるよね。ずっと行きたかったとこ。ずっとしてみたかったこと。ずっと言えなかったこと。目が醒めると隣に人がいるしあわせ。好きだと思ったときに躊躇なく「好き」と言えるしあわせ。でも好きは言う分減っちゃうかもしれないから、昨日は言わなかった。それは次へ繰越ししていいのかしら。気持ちいいとなんでああいう声が出るんだろうね。それ、最近私が不思議に思ったこと。変だと思わない?なんで、あんな声。みんな、戸惑ってる?しあわせな私じゃだめかな。
 
 
1月24日
 
 睡眠の全てがレム睡眠なんじゃないかと思うくらい夢をみる。4時間ごとに目が醒め、薬を飲まなければと思うのだけど手が届かない。そして私はシチュエーションこそ違うけれど、結局は同じ結末の夢を何度も繰り返し繰り返しみて、それを夢だとわからずに泣いたりしている。全て私がひとりになる夢。家族や昔好きだった人が何度も私を置いて行ってしまう。私はひとりになることをものすごく恐れているって、今更気づいて薬を押し込んだ。
 動けるようになって、リビングへ行って、同居人に抱きついた。大丈夫だよ。私はひとりじゃない。柔らかい体温を感じながら、そう繰り返す。
 なんでだろう。私はこんなに満たされているのに。バカみたい。ほんとバカみたい。だから早く鼻で笑わなくちゃ。
 
 
1月10日
 
 本当は、細くてしっかりした芯のようなものなんて、私の中にないんだ。
 
 あんたに足りないものは「デリカシー」だと思うよ。だからさ、ジョーズだってダースベイダーだって、登場するときにテーマってもんがあんだよ。間違っても夕方がらがらに空いた地下鉄の車内で、梔子色に座ろうか、それともカナリヤ色にしようか、そんな他愛もないことを迷っている瞬間に登場するもんじゃない。それとも何?イヤフォンで耳を塞いでいた私が悪いって言うのかい?
 絶好調!って思ってたんだ。さっきまで、絶好調!!って思ってたんだよ。病院に着いたら先生に「パニックは薬飲んでいればほとんど出ません」って報告するつもりだった。それがどうだ。目つきは明らかにおかしいし、向かい側の人たちの顔だってぼやけてて、瞬きでもしたら意思なんかおかまいなしに顔中びしょびしょに濡らしてしまいそうだ。私はゆで卵になって、誰かが外側から剥こうとしている。殻と薄皮と中身、間が少しずつひらくよ。するりと薄皮の剥がされる感触がする。身体ん中のどろどろしたものをぶちまけられそうだ。蛹みたいに私の中身はどろどろなんだから。
 た す け て 分 離 す る
 ここにいさせてこのままでいさせて音がきこえない誰か私にさわって
 携帯が震えてる。右のポケットで震えてる。耳にぎゅっと押し当てたら、いつもとおんなじ声がする。
「分裂しないよ。ふたつになっちゃったら・・・困るよ」
 変なことを言う。いつもと同じ、変なことを言う。ふたつになったら困るのか。はは、そうか。ふたつになんかならないよ。うん、ならない。ごめんね。病気だよね。現実感が、まだないよ。だけど、きみがいてよかった。
「先生、さっき、パニックきました。あと、母乳が出ました。それからアモバンは効くけれど、次の日味がわからないくらい口の中が苦い」
 店内がバスの座席みたいな場末のカフェで頼んだたらこスパゲッティはどっから見てもたらこうどんで、一体どんだけ茹でりゃこんなになるのかねと思いながらホットミルクを飲んだ。砂糖2杯入れた甘いホットミルク。ここではこれだけが救いだった。「会いたい」とメールを打った。「会いたい どうしても今日会いたい きみに触りたい」「うん わかった」 この人は、すごくやさしい人なのだ。
 早く夜がくればいい。そうしたら、私は今まで色んなところに隠していた気持ちを全部抱えてタクシーに乗ろう。自分で複雑に絡めてしまった糸の先にある、とても単純なまるいものを抱えて。
 
 今からタクシーに乗ります 抱きとめる練習しておいてください
 
 コンビニで 両手広げて まってます
 
 私の言ってもらいたかった言葉。バカみたいに単純な言葉。それでもとてもやわらかく、私を包み込んでくれることば。
 
 
1月10日
 

 
NO! に情緒もへったくれもない文章を書かせていただきました。
 
 































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