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川越街道
 
 あまり強い日差しの下では目があけられない。僕は白く飛ばされた世界を気難しい表情で掻き分ける。信号待ちに足を止め、渋谷の女のコはかわいいなと思ったりもするのだが、それ以上に不快感は増す一方だった。
 明治通りの喫茶店へ入る。アイスティーの涼しげなグラスにシロップを混ぜ、苛立たしさを中和させる。こんなに心からおいしいと思うには、この不快感も必要なのかとまた少しげんなりする。目の前の人たちとの会話で少しずつ生気が宿ってくるのを感じる。
 
 僕はひとり改札口で別れを告げ、夕刻と呼ぶにはまだ早い渋谷を後にする。山の手の電車の中で、本屋にでも立ち寄ろうかと考える。
 先の見えない曲がりくねった通路で僕は、一瞬身を硬くする。違う、よく似た人だ。それに僕はあの人が今どこに居るかを知っている。突然跳ね返された心臓を素手で乱暴に抑えつける。僕は知っている。あの人が今池袋にいるはずはないのだ、と。
 東京で偶然知り合いに会った経験はない。大して遠くない町で暮らしていても確率はあまり変わらないのかもしれない。例えここに居たとしても、お互い本の隙間を隈なく歩いたとしても、永遠に巡り逢うことなどないように思えた。それが哀しいことだなんて、僕はもう思わない。
 
 日曜ですら閑散とした地下鉄を降り地上へ出ると、もう視界は白ではなかった。見つけられなかった本をもう一度探そうと、川越街道へ出る。
 突然立ち止まった僕を避けきれず、誰かの肩が背中を打つ。人の流れも構わずにただじっと空を見つめる。それから僕はゆっくりと後ろを振りかえる。
 
 川越には薄い硝子細工のような夕暮れ。
 池袋には溶けかかった飴玉のような月。
 






























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