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昨日見た夢
 
 僕は本来夢をあまり見ない。睡眠のメカニズムからいったら多分見ているのだろう。だけど覚醒したときには憶えていない。(若しくは忘れたふりをしている)空想でも現実でも、だ。けれどここ数日の覚醒は酷く後味が悪い。レム睡眠のみで構成されたショートショート。夢と現を何度も彷徨い、戸惑った後の倦怠感までワンセットだ。瞼を閉じたのは朝方だったが、今日は2時間で根を上げてしまった。存在するはずのなかった土曜日はまだ半分も終わっていない。
 
 久し振りに会った彼女は明らかにはしゃいでいた。道玄坂を上りながら、僕は自分の気まぐれさを呪った。隣を歩くことさえ鬱陶しく、歩調を速めたり急に止まって周りを見渡すことで、彼女への無関心さを伝えようとした。小走りで僕に寄り添う彼女の話に適当な相槌を打った。かつてはビジネスホテルだったであろうと容易に想像できる、無機質な部屋のベッドの中でだけ、わざと丁寧な愛撫をした。
 
 新宿で乗り換える彼女に「じゃぁ」と別れを告げようとすると、ご飯でも食べていかないか、と言う。僕があまり金を持ち合わせていないことも考慮してか「ごちそうするから」と付け加えた。
 チェーンの居酒屋のカウンター席で一杯のサワーと石焼ビビンバを頼み、あとは彼女に任せた。顔を合わせたときよりも彼女の口数は減っていた。僕は自分が罪悪感に苛まれないように、人は食い溜めができればいいと思わないか、とか 私小説でも書いたら売れねぇかな、とかどうでもいいことをさも楽しげに喋った。
 煙草の煙の流れる方向にふと目をやると、数時間前の彼女を彷彿させる女が目に止まった。大学生だろうか。懸命に喋る女の隣では同い年くらいの男が黙ったまま携帯を眺めていた。緑に発光している画面では、薄暗い店内の男の表情を捉えることができなかった。
 
 店を出ると「ごちそうさま」の後に続く会話はなかった。それに気をとられるわけでもなく、無言で駅に向かって歩く僕の耳に彼女の言葉が届いた。
「隣のカップルも何だか奇妙な雰囲気だったね ずっと気になっていたんだけど、結局関係が分からなかった」
 この日初めて僕は彼女の顔を見た。この日初めて僕は彼女に反応した。
 
 車内の電光掲示板に明日の天気が流れる。
 ― はれ のち ときどき あめ ―
 一体どうしろってんだ、と僕は呟いた。
 






























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