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断片
 
 僕はさっきからキウイを眺めている。ニュージーランド産のそれは下から見ると確かにキウイなのだが、頭の先はキューピーのように窄まっている。
 今日僕は久し振りにスーパーへ行った。会社の喫煙所のテーブルには毎日なぜか新聞のちらしだけが置いてあり、女の子たちはときどきそれを熱心に眺めている。誰かが言った大手スーパーの「火曜100円市」を、僕は帰りに思い出したのだ。
 
 キウイの山の前で僕は長い間立ち尽くしていた。100円 という赤い文字の下に「果肉は黄色です」と書いてあったからだ。奇妙な形をしたキウイと呼ばれる果物をナイフで二つに裂き、開いた口が黄色であることを想像しようとしていたのだが、僕の頭の中でそれは黄色い西瓜にとって変わってしまう。
 イメージを拡散させるかのように軽く頭を振って、僕は「キウイ」を2つカゴに入れた。トマト、レッドグレープフルーツ、ひとつひとつカゴに入れる度、不思議な感覚に捉われていくことに気づく。僕はこの場所を好んでいるようだった。右や左に目を動かしながら、浮き足立った気分になっている。
 匂いと同じように、視覚はそっと記憶を呼び起こす。いくつもの断片が組み合わさり、無意識に抽象化される。
 
 いつもカートを用意するのは僕の仕事だった。
「今日はそんなに物を買わないわよ」
 と言う彼女に
「これがなくっちゃ始まらないんだよ」
 とお決まりの台詞を口にする。彼女の後ろでくるくるカートを回したり、たまに自分が回ったりして、おばさんに睨まれるのはしょっちゅうだった。
「何を作ろう」
 真剣に食材を吟味する彼女の目を盗み、自分の欲しい物を勝手にカゴに放り込む。
「おでん。ハンバーグ。プリン。豚の角煮。カレーライス」
 とめちゃくちゃな献立を捲し立てる。呆れた顔で振り向く彼女はカゴに入れられた不要なものを見て怒るのだ。
「もう。こんなのいらないでしょ」
 戻してらっしゃいと睨む彼女がおもしろくって、僕はぽいぽい色んな物を入れる。それが本当に欲しいのか、彼女の怒った顔が見たいのか分からない。
「プリンはどっちかにしなさい」
「はーい」
 物分りのよい子供みたいな返事をする僕を見て、最後は彼女も笑うのだ。
 
 僕はまだ飽きずにキウイを眺めている。ふと、彼女とキウイを食べたことはあっただろうかと考えたが、彼女との日々があまりにも断片的過ぎて思い出せない。無理に繋げてみたところでそれは意味のある結合とは思えないし、まぁこれでいいんだろうな、と僕は思う。
 それよりも、そろそろキウイを切ってみようか。
 






























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