index




 
金魚
 
 人の波だけがうねり、空気は動いていなかった。炎天下を流れに任せて歩き、少しの隙間を見つけてシートを広げる。うだるような暑さの中、頬が上気するのは気候の所為だけではないようだ。みんなが望んでいるのは少しの風と夕闇への推移。

 空を切り裂く音でビールを片手に立ち上がる。花火は木々で切り取られた空にうまく広がらなかったが、それでも自分の気持ちまで昇華していることに気づく。もっと高く、と願いながら昇る煙火を目で追う。細工が施されたものもいいが、枝垂れ柳のような余光が見たい。あのひと色でいいから。

 終局を迎える花火を背に、僕たちは歩いている。幾らかの人が澱むことなく同じ方向へ流れてゆく。手をひかれ歩く浴衣の少女。絞り染めの朱の帯がふうわりと揺れる。僕は夏の夜に藍い闇をゆらゆら泳ぐ赤い金魚のことを思った。
 






























SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送