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ただ、それだけのこと
 
 ビデオを借りて帰る途中に個人経営の弁当やが一軒。店先ではカップルが椅子に腰掛け弁当が出来あがるのを待っている。のり弁を注文し店を見回すと、カウンターの端に小さな金魚鉢があった。僕はそれの近くに置いてある椅子を選んで腰掛ける。水底には青色をしたビー玉が敷き詰められ、水中には赤い金魚が一匹。揚げ物のシャワシャワとした音を聞きながら、僕は店主に気づかれないよう横目で金魚を見遣る。偽物のおもちゃのように思えたからだ。目、口、腹、鰭、色。おもちゃにしては精巧すぎる。やはり本物なのだろう。顔を近づけ正面から見つめる。目は濁っていない。キョトンとした顔をしている。金魚は水面に横になっていた。飲食店の店先で赤い金魚は死んでいた。自分が死んだことにも気づかない風に。
 






























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