index




 
夏の子供
 
 窓を開け、ふくらむカーテンに時折目をやりながら僕は本を読んでいた。空気は梅雨を通り越して夏の匂いがした。気持ちは散漫になっていて、どうしても目で追っている文章を頭に入れることができない。諦めて本を閉じ、植物に水をやり、外へ出る身支度を始める。
 
 夏は苦手だ。ヘッドフォンから流れる音はブリッジから松江潤に移る。90年代で止まってしまった僕の音楽に、今日の空気はぴったり合った。風を切るような凛とした気持ちになるのは、今日が本当の夏じゃないからだ。慌てて自分に言い訳をする。
 
 地下鉄のホーム、電車が滑り込む前の強い風、車内のひんやりとした冷房。あと数ヶ月すれば何度となくこんなことに心地よさをおぼえるのだろう。
 これだけ空いていれば迷惑はかからないよな… ガラガラの車内でボリュームを最大に上げ、瞼を閉じると目の奥が鈍くじんわりと痛んだ。
 途中の駅でドアが開く。カバンに身体の追いつかない子供達が重なるようにシートに飛びつく。そこに参戦しなかった者が傍らに立つ。性格が出るな、と心の中で呟く。
 目的地に着くことを知らせるアナウンス。子供達はもうドアの前で飛び出す瞬間を待っている。僕はひとつドアをずらし、横目で夏の象徴のような彼らを眺める。
 視線を戻すと僕の前にひとりだけ、僕と同じように彼らとは別のドアが開くのを待っている子供がいた。小さい手にはハードカバーの本が握られている。思わず声をかけそうになった自分を開いたドアでやっとの思い押し留めた。
「キミと話がしたい」
 素直にそう思った自分に笑い出しそうになった。
 ホームを降り彼らと一緒に階段を駆け上がる彼のアンバランスさ。そんなことが眩しく、そして羨ましく感じられた。
 






























SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送