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キミはバカだ、と本気で思う
 
 その事実を感情は追い越してしまった。何もかも切なさに結びつけ、このまま、リアリティのないまま、遠く離れてしまえたらと思った。会わねば後悔することも、会わずにはいられないことも分かっていた。だけど僕はそれを先延ばしにした。リアルな感傷を先延ばしにしていた。
 
 午前1時にチャイムが鳴る。
 僕は部屋の明かりを消し、逃避の為の寝巻きに着替えたところだった。こんな時間に誰だろうなどと考えるほど自意識は欠乏していない。こんな時間だからこそ、絶対キミだと確信していた。
 2度目のチャイムが鳴る。僕はのろのろと立ち上がり、寝巻きのままドアを開けた。少し髪の短くなったキミが、外界とを隔てるチェーンの向こう側に見えた。
「何してるの。連絡もとれないし。首でも吊ってるのかと思った」
 僕はその場にへたり込み、
「死んでるわけないだろ」
 と苦笑混じりに答えた。
「上がらせてもらうよ」
 と言うキミを
「ちょっと着替えるよ」
 という言葉で押し留め、感情の代わりに散らかっていた弁当の器を片付けた。
 
 「この部屋、何だかもやっとしている」
 煙草の煙かとも思ったが、天井を見上げると確かに乳白色の靄がかかっているように見えた。
「早過ぎるんだよ」
「キミのいない東京での自分が想像つかないんだ」
 僕は黄色くなった壁の隅を見つめながら、ポツポツと支離滅裂な感情を吐いた。
「人のせいにしてばかりだ。人に頼り過ぎなんじゃない?」
 至極尤もな言葉にも、どうせ明日までなんだから聞けよ、と開き直った。
「直情的にものを言えば僕の考えてることなんてこんなもんだよ。だからいつも客観的に、感情を整理しようとしているんじゃないか。一体どうしろってんだ」
 最後はもう一人言に近かった。子供じみたことを言っているという認識くらいあった。それでも外れた箍はもう元に戻らなかった。たまたま犬に噛まれたつもりで聞いてくれ、と自分勝手に願った。
「じゃぁさ、一体どうだったらシアワセなの」
 喉まで出かかった言葉を飲み込み僕は分からない、と答える。言ってはいけない言葉の判断がやっとついたところで、見えないくらいの僅かな余裕が出てくる。
「とにかく明日一緒にご飯を食べに行こう。それから何もないうちへ来たらいい」
「明日もどうせこんな調子だよ」
「それでもいいよ」
 とキミはやさしく言った。
 
 キミが帰ったあと僕は泣いた。自己嫌悪より爽快感のほうが勝った、そんな僕の言葉を受けとめ、それでも僕に会うと言うキミをバカだと思った。
 帰り際、ビールの空き缶を横目に
「それで家を造るんだ」
 と言った僕のことを、キミは半笑いで心配そうに見つめた。
 真に受けんなよ、と口に出してみようとしたが、嗚咽で言葉にならなかった。
 






























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